わたしの老健(老人保健施設)勤務における経験から就職者へ

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#430 2018/09/08UP
わたしの老健(老人保健施設)勤務における経験から就職者へ
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老健とはどのような施設なのでしょうか?就職・転職するうえでの注意点は?今わたしが老健に在籍していて、経験したこと・感じたことをお話ししていきます。

経験がものをいう世界

県下でも大きな総合病院に就職し3年余り勤務していたわたしは、結婚を機に他県に転出、10年間のブランクを経て個人病院に転職、複数の総合病院、デイサービス・有料老人ホーム等の派遣を経て、現在は老健施設に勤務しています。

そんなわたしが感じるのは、つくづく複数の医療機関に勤務し、様々な看護・経験を積んできてよかったということです。

今在籍している老健施設は、1階あたり40床で入居定員160名のかなり大きな施設です。それだけの入所者さんがいると、当然のことながら入所者さんそれぞれが性格や体調面において違いがあり、障害を持った方や認知症の方もいらっしゃいます。

通常の看護・介護であればまだしも、イレギュラーな事態が起こった時に経験を積んだ看護師でないとスムーズに対応することがむずかしいのです。

もちろん最初から老健施設勤務を希望する医療従事者もいらっしゃいます。そのような人たちは自分の身内に介護される方がいるケースも多々あり、そのような介護が身近になっている人たちであれば使命感も手伝って、苦労を重ねながら老健でしっかりキャリアアップしていくことでしょう。

そのようなケースとは異なり、漠然と老健施設に就職するようになった新卒者さんたちは、対応に戸惑って悩み、しまいには仕事が長続きしなくなり転職していくということもあるのです。

現在の医療の流れと老健のかかわり

みなさんも聞いたことがあるかと思いますが、今の医療の流れは病院・医療施設から在宅へと移ってきています。なぜなのでしょう。これは国の財政が厳しいことが最大の要因であるといっても過言ではありません。

入院が長期化すれば、それだけ国の保険に対する財政がひっ迫します。そのため、在宅における看護・介護を主流にしていくことが喫緊の課題となっているのです。

この病院・医療施設から在宅へという流れを担う役割が老健施設にはあるはずなのですが、一生懸命看護・介護を行っても、ショートステイで来た利用者さんがロングステイとなってしまったりして、実際にはこの流れにつながってこないのです。

老健施設に入所していて健康状態が改善され在宅に戻れるようになったとしても、核家族化が進んでいることもあり、家で家族が面倒を見られないなどの理由で、その後老人ホームに入所してしまう方もいます。

それほど病院・医療施設から在宅に看護・介護を移すことが難しくなっているのです。

老健における看護師の役割

高齢者である入所者さんや利用者さんは慢性疾患を持っている人がほとんどです。そんな慢性疾患を持っている人たちの異常にいち早く気付くのが看護師の役割です。

老健施設にはドクターもいます。ケアワーカーさんもいます。しかしながら、常に入所者さんや利用者さんの健康状態を見ていられるのは専門的な知識を持った看護師なのです。

看護師が入所者さんや利用者さんの異常に気付いた場合、ドクターの指示を仰ぐ役割、病院に連れて行く役割もあります。看護師の仕事は、入所者さんや利用者さんの命を守ることに直結するのです。

その覚悟を持たず、生半可な気持ちで看護の世界に入ってきたとしたら、それは患者さんにとっても本人にとっても悲劇といえるでしょう。

また、看護師が入所者さんや利用者さんの命を守るためには、他の医療従事者たちとのチームワークが欠かせません。

ケアマネージャー・ケアワーカー・他の看護師・ドクター・管理栄養士・薬剤師・リハビリ部門といった様々な医療従事者たちとの連携により、入所者さんや利用者さんの健康状態を把握し情報を共有する。それがよい看護・介護につながり、入所者さん・利用者さんを早く自宅に帰してあげることにつながるのです。

入所者さんとの交流


老健施設の入所者さんは高齢でもあり、多くの方が認知症を患っておられます。

その入所者さんを仮にOさんと呼ぶことにします。
Oさんは小柄な優しい表情をする女性でした。
わたしがOさんだけに特別な接し方をしていたわけではありませんが、看護師としての役割・責務とは別に、Oさんに「元気にしています?」などと話しかけるとニコニコしながらうなずいてくれるのが楽しく、こちらが元気をもらったのは事実です。

ある日、ケアワーカーのAさんからわたしの携帯電話に連絡が入りました。
AさんはOさんのケアワーカーとして勤めている方です。

「もしもしAさん?」

「今Oさんが隣にいるのだけど、あなたとお話ししたいみたいよ。」

わたしは看護師2名で担当しているその階の入所者さん40名の健康状態を見ているので、Oさんに携わっていられる時間はそれほど多くありません。
そこでわたしは携帯電話でOさんに話しかけることにしました。

「もしもしOさん。何かお話ししたいことがあるの?」

それに対しOさんは

「・・・・・・・。」

「Oさん、今日のご気分はいかがなの?楽しい?」

「・・・・・・・。」

結局Oさんから発せられる返事は一言もありませんでした。
でも受話器の向こうでOさんが私に向かい、『こんにちは。元気よ。』と言いたいのが痛いほど伝わってくるのでした。

ケアワーカーのAさんが電話を替わり

「今Oさんニコニコしているわよ。あなたの声が聴けてとてもうれしそう。」

と代わりに話してくれました。
わたしの気持ちもジワッと暖かくなりました。
このように認知症の方は言葉に出すことが出来なくても、自分の意思をしっかり持っている方が多いのです。

やがてOさんは体調も快方に向かい、わたしの勤務している老健施設を退所していきましたが、その後聞いた便りではOさんは老人ホームに入ってしばらくしてお亡くなりになったそうです。
どんな人に対しても優しい表情をしてくれるOさんのことを今も思い出します。

まとめ

わたしが老健施設に勤務している経験から、これから就職・転職しようとする医療従事者の方に言いたいことは、老健施設の入所者さんや利用者さんは認知症の方が多いのですが、それぞれの方がしっかりとした人格・確固たる意志を持っているということです。

そういう方たちと接するためには看護する側の経験も必要ですが、何よりも相手に対する思いやりが重要であるということなのです。

これから老健施設に就職・転職しようとするみなさん。
入所者さんや利用者さんに対して、ぜひリスペクトを持った接し方をしていただけるようお願いします。

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