病院を退職した後、私は健康管理センターへ転職し、人間ドックの部門へ配属になりました。私は病棟と外来しか経験がなかったため、人間ドックといっても正直具体的なイメージはついておらず、それでも予防医療の大切さは病院時代に嫌というほど感じたので、転職を決めました。センターには健診部門、人間ドック部門、検査部門(内視鏡検査の介助等)外来部門(健診・人間ドック後の再来)に分かれていましたが、以下は私が勤めた人間ドックについての内容です。
私自身が実際に働き、特に重要だと感じた看護師の役割を中心に説明していきます。
人間ドックにおける看護師の役割
私が勤めた部署では、人間ドックも受診者に対する問診、診察介助、受診後の健康相談、結果の管理、保健指導などを行っていました。保健師、看護師、看護助手が主に在籍しており、新卒で就職するのはやはり保健師が多く、看護師のほとんどは中途採用やパート勤務の人でした。
1)問診
ドック前の問診は重要です。なぜかというと、それは受診者の安全がかかっているからです。受診者が問題なくドックを終えるための最初の砦でです。もちろん検査中は予想外のことが起こる可能性はあります。しかしそのリスクを最低限にするのが問診の役割です。
問診では、
- 既往歴
- 治療歴、治療状況
- 検査に関わる薬剤の使用状況
- 気になる症状の有無……等
を中心として、朝の飲食状況なども確認し、最終的にドックの受診が可能かを判断していきます。とくに既往歴や治療歴、薬物治療の有無などは、検査を安全に受けることができるかの判断材料としては重要ですので、十分に聞き取りをしていかなければなりません。特に胃・大腸の内視鏡検査や胃透視検査などは身体的な負荷かかかりやすく、心臓や脳血管障害などの既往を持つ人は要注意です。薬物に関しても血圧や循環器疾患、糖尿病に関する薬剤の場合は、内服の有無によって検査に支障をきたす可能性もあり、これらの聞き取りの結果によっては検査が中止、延期になる場合もあります。
しかし人間ドックの場合、職場の健診とはやや異なり、自らの意思でドックを受診する人も多くいるのです。できる限り安全に、けれども可能であれば当日に受診してもらうために、場合によっては主治医へ連絡をとったり、センター在籍の医師の診察を行います。
また人間ドックでは、受診者の希望があれば検査を追加する、または必要がない場合(同様の検査を病院受診等で行っていた場合など)は検査を中止にするといったこともあります。受診者の症状や当日の体調によって検査の要不要を見極めたり、その根拠となる理由を受診者が納得できるよう説明したりと、疾患や薬物に関するものだけでなく、検査内容についても十分な知識が必要とされるのも問診業務の特徴です。
ちなみにこれらは、各センターによって検査基準などをマニュアル化しているので、具体的に事前学習することは容易です。これまで培った知識と組み合わせることで、受診者への安全な検査を提供できます。
また、もうひとつ重要なのがコミュニケーション能力です。聞き取りや説明はもちろんですが、中には金額の問題や、待ち時間の問題、検査がやむなく中止になった場合など、クレームが発生することが割と多くあります。そのような場合に受診者が納得できるようなきちんとした説明をするために、コミュニケーション能力は非常に重要になります。病院での医療とはやや異なり、人間ドックの場合サービスの側面もあるのでなおさらかもしれません。
2)受診後の健康相談
ドックの最後には医師の診察と、疾患的な問題が見つかった場合の説明があります。この際、保健師や看護師が介助につきます。診察介助については、外来での診察介助と同様のイメージです。ただこの際、結果によっては受診者が精神的なショックを受けたりすることもあるため、受診者の観察をすることは大切ですね。そしてその内容は健康相談へ入るスタッフへと申し送りされます。
健康相談ではドックの結果を用いて、内容の説明及を行います。結果に疾患的な問題がない場合、保健師・看護師だけでなく栄養士も相談に対応します。
- 検査結果の説明
- 注意項目がある場合は予防のため食事・運動など生活改善の指導
- 性別、年齢、既往歴などから次回勧められる検査についての説明
- 紹介状ある場合は、病院や診療科の紹介と説明……等
人間ドックは予防医療ですからドック後の健康相談で、いかに受診者が健康に向けての行動を動機付けできるかが重要です。結果によっては重大な問題が見つかり、早急に受診や治療が必要な場合もあります。そのような場合は医師の説明にも同席し、受診者の表情を観察しながら、受診に関する説明を行います。病院とは違いますがシビアな場面もあるので、問診と同様に知識と同時に観察能力やコミュニケーション能力が必要ですね。
また最近ではメンタルヘルスも重要視されていますから、ドックの項目にもストレスに関する項目あります。ストレス社会とされる現代ではうつ病も珍しい病気ではなくなりました。受診者の中には多大なストレスを抱えている人も多く、健康相談時に相談する人も少なくありません。そのためメンタルヘルスに関する知識もこれからはより求められる傾向にあります。
病院での知識が生かせる仕事
そのほか、以下の内容の仕事があります。
- 検査室と連携してドックの結果表を作成
- ドック結果に間違いやおかしな箇所がないかのチェック
- 結果表の郵送の準備
- 一部検査の前処置、介助(医師の介助)
- 翌日の受診者の情報収集、準備
- 保健指導
- 体調不良者の対応……等
センターに勤めて感じたことは、健診や人間ドックは行政の仕事である側面が強い、ということでした。行政の方針が変更されれば、健診やドックの内容にも変更が生じます。病院と違いひとつひとつの目の前の命と向き合うのではなく、地域や社会が健康を維持していくための仕事なのだと感じました。そういう意味では保健師は公衆衛生など看護師よりさらに専門的に勉強していますから、予防医療に関してはとても重要な位置にいます。
しかし医療の現場にいた看護師だからこそ、よりリアルに受診者の状況を想像でき、安全や健康を守ることができる仕事であるとも感じました。受診者に対しても、疾患や治療に関してはより具体的な情報を提供することができます。行政に関わる内容を覚えることは慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、医療の現場とはまた別のやりがいがあると感じました。
まとめ
人間ドックの仕事は基本的に日勤のみ(宿泊のドックがある場合は当直などあり)ですし、体力を使う仕事ではありません。また残業も比較的少ない仕事だといえます。職場の雰囲気にもよると思いますが、私が勤めたセンターでは結婚、出産、子育てなどに理解があり、とても働きやすい職場でした。そして医療の現場で得た知識をより深め、別の形で提供することができます。
もちろん合う・合わないはあると思いますが、気になる人は、一度検討してみてはいかがですか?
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